蓮の花【神宮寺便り121号】
琵琶湖のほとりにある水生植物公園「みずの森」にて真っ盛りの蓮の見学をしてきました。開花時間に合わせて朝早く訪れたのですが、蓮池で有名な公園だけあって園内にはすでに大きなカメラを携えたアマチュアカメラマン達が集まり、あちこちで蓮の撮影を始めていました。
私の背丈ほどの高さにスイカくらいの大きさの花を咲かせた巨大な蓮や、色とりどりの睡蓮の浮かぶ池のほとりの細道を、甘い香りを感じながら歩き、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の冒頭の情景を頭に浮かべました。
「お釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えないよい匂いが、絶間なくあたりへあふれて居ります。極楽はちょうど朝なのでございましょう。」「ヒスイのような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。」
公園の蓮の葉もヒスイに似た緑色でとても大きく、中には蜘蛛が銀糸を張ったものもありました。自分が今いる場所がまさに作中の極楽の景色なのか、と感慨に浸りつつ散歩を続けました。
小説「蜘蛛の糸」では、このあとお釈迦様が蓮の間からその真下にある地獄の底を覗き、かつて蜘蛛を助けたことのある罪人カンダタに対し、慈悲の心で蜘蛛の糸を下ろし、救いの手を差し伸べます。しかし、カンダタ自身の無慈悲の行いにより、糸は彼の手元から切れ、罪人は地獄の底へ落ち戻っていくのでした。極楽の蓮の花は、このつかの間のドラマに頓着せず、ただゆらゆらと揺れ、あたりに良いにおいを漂わせ続けました。
仏教において蓮は悟りの象徴とされ、多くの仏画に登場します。観音様がその蕾を手に持っていることでも親しまれていますね。
神宮寺の奥の観音様の足元にも蓮池があり、その真下には普天間洞穴の先の古い洞窟が続いています。お参りの際には是非、蓮池の下に広がる洞窟の様子を思い浮かべてみて下さいね♪
寺務員 三原